先々代名義のままの不動産

相続した不動産の名義が先々代のまま。どうすれば?

【ケース】先々代(A)は大地主でかなりの土地を所有していましたが、子どもが8人いたため約30年前の当時は相続税がかかりませんでした(当時の相続税の基礎控除は1億3,000万円)。また、「不動産の名義変更には登録免許税などの費用がかかるので名義変更はしないほうがいい」と周囲から聞かされていたため、名義変更することなくそのまま放置していました。
その後30年が経ち、残った子ども6人のうちの長男(B)が死亡しその相続人である子(C)が相続を開始しようとしたのですが、先々代の名義変更からしなければならないことが分かり、その遺産分割協議書を作成する必要があると司法書士に告げられ驚いてしまいました。
先代は8人兄弟で、すでに死亡している兄弟姉妹もいることから、印鑑をもらう人が代襲相続人も含めて20人になってしまっていたのです。なかには音信不通の人もいたため、弁護士に依頼することとなり、登録免許税ほかの費用に加えて弁護士費用までかかることになってしまいました。
※遺産分割協議には代襲相続人を含めた相続人全員の署名と押印が必要です。1人でも拒否する人がいる場合、遺産分割調停や訴訟などの手続きをする必要がありますが、このような相続人間で紛争がある事例では代理人として弁護士のみが関与できます(司法書士は関与できない)。

2024年(令和6年)4月から相続登記が義務化されましたが、それ以前は相続が発生して不動産の所有者が亡くなっても名義変更登記の義務がなかったため、このようなケースが多々ありました。とくに相続税がかからないような場合、あえて登記をしない人が多かったようです。

時間が経てば、代襲相続人が増え続けて手続きが煩雑になる

登記をしないまま放置しておくと、思わぬ事態に陥ります。
このケースでは、長男(B)の相続人である子ども(C)が亡くなった父(先々代の長男B)の相続手続きをしようとしたところ、先々代(A)の名義のままになっていたため、その子どもたちへの名義変更から始めることになりました。代襲相続人(C)の単独名義にしようとする場合、先々代(A)の相続人である(A)の子ども及びその子どもが亡くなっている場合はその代襲相続人の全員と遺産分割協議をして、先々代(A)の長男(B)に相続させる協議の成立がまず必要です。その成立後、長男(B)の(C)を含めた相続人全員で、(C)の単独名義にする旨の遺産分割協議の成立が必要です。
今回のケースでは、先々代(A)の8人の子どもの中にはすでに亡くなっている人もいるため、その亡くなった人の子どもが代襲相続人になり、遺産分割協議書への押印が必要な人数が増えていきます。結果として合計20人の印鑑をもらわなければいけない状況になっていたのです。


場合によっては、先々代(A)の相続人が高齢で認知症になっていれば家庭裁判所への成年後見人の選任申立てが必要であったり、海外にいれば在外公館による署名証明書の取得が必要であったり、音信不通になっていれば不在者財産管理人を選任する必要があったりなど、更に煩雑な手続きが必要になっていきます。
申告期限である10ヶ月がとても短く感じることでしょう。

不動産の名義が変更されていない場合のリスク

先祖からの不動産の名義が変更されていない場合のリスクを整理すると以下のとおりです。

・相続登記義務化(2024年4月~)により過料のおそれがある

これまでは相続登記しなくても罰則はありませんでしたが、2024年4月から相続登記が義務化されました(2024年4月以前に発生した相続も対象)。
相続発生から3年以内に相続登記をしない場合には10万円以下の過料が科されるおそれがあります。

・相続登記が煩雑で専門家報酬が高くなる

相続登記を行う場合、今の所有者(今の登記名義人)から次の所有者に名義を変更する必要があります。
先祖何代も登記がされていない場合、過去の相続にさかのぼり、それぞれのタイミングで相続登記を行う必要があります。この相続登記には、今の登記名義人の相続人及びその代襲相続人全員が遺産分割協議に参加し、署名・押印をする必要があります。今回紹介したケースでは20人で協議を成立させる必要がありました。
その全員が納得すれば良いですが、署名・押印を拒否する人、認知症の人、海外に住んでいる人、音信不通の人等がいるとさらに手続きは煩雑です。
単純な相続登記ではなく、弁護士への依頼も必要となり、費用がかかることになります。

・共有不動産(遺産分割協議前)は活用や売却ができない

遺産分割協議が完了していないと、下記のとおり、その不動産は相続人全員で共有していると扱われます(民法898条)。何代にもわたって相続登記がなされていなければ、それだけ大勢の相続人が存在していることになります。その土地を活用したり、売却したりしようとする場合、共有している相続人の合意が必要となるため、活用や売却を行いづらい状況に陥ってしまいます。
つまり、遺産分割協議が成立していない場合、活用や売却もできず、管理コスト(固定資産税等)だけがかかってしまう状態になりやすいということです。

遺産分割協議が成立していない不動産は「相続人全員の共有」

相続が開始してから、どの相続人がどの遺産を相続するかを決めるまでの間(遺産分割協議が成立するまで)、遺産は相続人全員の共有財産です(民法898条)。そのため、不動産収入があれば、遺産分割が成立するまで、相続人全員はそれぞれの法定相続分に応じて、それぞれがその収入を確定申告する必要もあります(最高裁判決H17.9.8)。さらに、この共有不動産を売却する場合、共有者全員の同意が必要です。ほかの共有者のひとりでも「売りたくない」と言ったら売ることができなくなります。売却以外にも、共有不動産の場合、共有者の1人が勝手に管理や変更を行うことができません。共有者の不動産に対する行為には以下の制限があり、行為によって一定数の承認が必要となったりしますので注意が必要です。

保存行為(民法252条5項)

保存行為とは、雨漏りの修理や庭の手入れなど、不動産の現状維持のための行為です。この保存行為は、共有者1人でも行っても問題ありません。むしろ、建物の保存には必要なことですからほかの人にとっても利益になることです。このような行為は単独で行ってもかまいません

管理行為(民法252条1項前段)

「短期間の」賃貸借や部分的なリフォームなど、簡易的で全体としての不動産の価値は変わらない程度の行為とされ、共有持ち分の過半数(共有者の人数の過半数ではありません)の同意があれば可能となります。この場合の「短期間の」とは、建物は3年以内、土地は5年以内の契約のことですが、期間内であっても借地借家法が適用される場合は、管理行為の範囲から超えてしまいます。
※借地借家法が適用されない場合:「一時使用目的の建物賃貸借契約」「無料で貸し借りする契約」「1992年8月1日より前に締結された建物賃貸借契約」

変更行為(民法251条1項)

借地借家法が適用される一般的な賃貸借契約、大規模なリフォーム、売却などは変更行為となります。これらの変更行為は、共有者全員の利益に影響するため、共有者全員の同意が必要となります。

【唯一の対策】早い段階で登記の状態を確認する

先祖代々にわたって相続登記されていない不動産は、過去の相続をさかのぼり所有者を判明させ、それぞれの相続登記をしなければなりません。
過去の相続で遺産分割協議が完了していない場合、不動産は相続人全員の共有状態です。時間が経てば、相続人が増え手続きが煩雑になっていきます。早い段階で登記の状態を確認して、専門家に相談することが大切です。

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