相続人がいない場合
相続人全員が相続放棄をして相続人がいない場合、引き継がれなかった財産は最終的に国庫に納められます。
財産の中に債務(マイナスの財産)があった場合、債権者にプラスの財産を分配した上で、残った財産が国庫に納められます。債務(マイナスの財産)がプラスの財産よりも多い場合、利害関係者(被相続人の債権者など)から「相続財産清算人」を選任するための申し立てをされる場合があります。
【出典】裁判所ホームページ『相続財産清算人の選任』
相続されるはずだった財産が国庫に納められるまでの流れは次のとおりです。
1. 相続財産清算人選任の申立て
2. 相続財産清算人を選任
3. 相続人の捜索が改めて行われ、不存在であることを確認
4. 被相続人の債務の清算と相続財産清算人への報酬付与
5. 残りの財産が国庫に納められる
相続放棄をした場合の管理義務→保存義務
R5.4民法改正前
R5.4の民法改正前は以下のとおり、相続放棄してもその相続放棄によって相続人となった次順位の相続人が相続財産を管理するまで、自分の財産と同じように管理しなければならない管理義務は残り、「財産は放棄するので自分には関係ない」と主張することはできませんでした。
『民法940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。』

たとえば、次のような場合、相続放棄者に管理義務が及んでいました。
①相続人が1人で後順位の相続人がいない
②複数の相続人が全員相続放棄した
つまり、①のケースでは、その相続人が相続放棄をしても次順位の相続人となる相続人がいないため、遺産の管理を継続しなければなりません。
また、②のケースでは、複数の相続人がいても最後に相続放棄をした相続人は、次順位の相続人となる相続人がいないため、遺産の管理を継続しなければなりません。
このような次順位の相続人がいないケースにおいて管理義務を免れるには、相続財産を管理する「相続財産管理人(現:相続財産清算人)」(民法952条)を選任する必要があります。その選任の手間や費用(専門家報酬数万円、予納金10~100万円等)が、いらない実家や山林を残された相続人が相続放棄を躊躇する要因となっていました。
R5.4民法改正後
改正民法では以下のとおり定められました。
『民法940条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。』

これにより「現に占有している」実態がなかった相続人に、管理(保存)義務が移ることはなくなりました。「現に占有」とは「事実上、支配や管理をしている」状態を指します※。たとえば、被相続人の自宅に居住している相続人は、相続財産である自宅を「現に占有」しているため相続放棄後も保存しなければなりませんが、その自宅以外で独立した生計を営んでいる他の相続人は、相続放棄することによってその保存責任はなくなるということです。
※「占有権」についてはこちら
管理義務から保存義務への呼び方変更
上記改正により「管理義務」から「保存義務」と変わり、法律には「自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」と記されています。この「保存義務」は相続財産を滅失・損傷する行為をしてはならないという意味のもので、隣人など第三者に対する義務として構成されるわけではなく、次の相続人や相続財産清算人に対する義務であると考えられています。
保存義務を免れる方法
「現に占有している」人が相続放棄した場合に保存義務を免れる方法は以下のとおりです。
他の相続人に引き継ぐ
相続放棄をした場合で次順位の相続人がいるときは、その人に相続権が移ります。その人が相続し、現に占有していた相続財産を引き継ぐことができれば、保存義務はなくなります。しかし、その人も相続放棄した場合、保存義務は現に占有している人に残りますので、保存義務を免れることはできません。
家庭裁判所で相続財産清算人を申し立てる
前述のとおり、現に占有している者が相続放棄しても、他の相続人が相続しない場合には保存義務は残ります。この場合に保存義務を免れるには家庭裁判所に「相続財産清算人」を申し立てる必要があります。相続財産清算人とは被相続人(亡くなった方)の債権者に対し債務を支払うなどして清算を行い、清算後に残った財産を国庫に帰属させる人です。空き家であれば売却などを検討し、それが難しい場合に国庫に帰属させる手続きを進めます。相続されるはずだった財産の国庫帰属までの流れは前述のとおり。
相続財産清算人に相続財産を引き継ぐことができれば、保存義務はなくなります。
保存義務を履行しなかった場合のリスク
前述のとおり、相続放棄をしても相続財産を「現に占有している」人には保存義務が残ります。この保存義務が守らなかった場合のリスクは以下のとおりです。
損害賠償請求される
保存義務のある空き家などの相続財産を放置したままにしていたことで毀損してしまうと、債権者が債権回収できなくなったり、受遺者が遺産をもらえなくなったりすることがあります。この場合、相続放棄者が保存義務を怠ったことを理由に、債権者や受贈者から損害賠償を請求されるリスクがあります。ほかにも、このような空き家の壁が倒壊して通行人にけがをさせてしまったような場合、損害賠償を請求されるリスクがあります。

事件に巻き込まれる
保存義務のある田舎の空き家などの相続財産を放置したままにしていたことで、事件に巻き込まれるリスクがあります。たとえば、犯罪集団のアジトや薬物栽培の場所に使われたり放火されたりすると、保存義務者である相続放棄者が犯罪や放火の共犯を疑われて取り調べの対象になることもありえます。

相続放棄後の注意点
現に占有している人が相続放棄した場合、保存義務は残りますが、勝手に相続財産を「処分」してはなりません。
相続財産の「保存行為」に該当するか、「処分行為」に該当するかはとても大切です。相続財産を「処分」すると、「法定単純承認」※(プラスの財産もマイナスの財産も相続すること)が成立し、相続放棄の効果がなくなります。すべての相続財産を相続せざるを得なくなり、借金が遺された場合などには大変な不利益を受けるおそれが発生します。
※単純承認についてはこちら
保存行為
保存行為とは、相続財産の価値を維持する行為のことをいいます。保存行為に該当する場合には、相続財産の「処分」に該当しないため、法定単純承認の効果は生じません。保存行為の例として、壊れかけている家屋の修繕や腐敗するものを処分する行為などが挙げられます。いずれも一見は「処分」行為に該当しそうですが、相続財産の価値を維持する行為であるため保存行為として認められます。
処分行為
処分行為とは、相続財産の現状や性質を変更する行為や法律上の変動を生じさせるような行為のことをいいます。処分行為の例として、相続財産である不動産の売却などが挙げられます。
まとめ
民法改正によって、相続放棄後の空き家など相続財産の保存義務は「現に占有している」人に限られることが明文化されました。この保存義務は、他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、免れることができません。この保存義務を履行しないことによって、損害賠償請求や事件に巻き込まれるリスクがあることに注意が必要です。また、相続放棄したからといって、「法定単純承認」に当たる相続財産の「処分行為」をすると相続放棄の効果がなくなり、すべての相続財産(プラス、マイナスを含めて)を相続しないといけなくなることにも注意が必要です。
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